2010年7月、飯豊連峰縦走(飯豊山荘、ダイグラ尾根、飯豊稜線、梶川尾根から下山)

2010年 7月17日 ~ 19日:2泊3日 テント2泊
飯豊連峰
門内岳から見るダイグラ尾根と飯豊本山(一番奥)
見知らぬ遠くの地に憧れるのは誰しも同じ。
東北の山、飯豊連峰は特に行きたかった所。
色々調べるのが苦手な性格でも取りあえずこんな年までやってこられた。 幸いというよりこの場合は災いして、全く公共交通機関の利用方法が分からない。 時刻表の細かい数字を見るのは大の苦手なのに車の運転は(得意ではないが)苦にならない体育会系気質。海の日の3連休、高速料金が1000円の今行かなければいつ行ける? ということで早速地図を広げた。 すると、こちらからだと反対側(山形県側)の飯豊山荘まで行けば 周回コースがとれることが分かった。カーナビで「飯豊山荘」を検索してみると バッチリヒット! (便利な時代になったもんだ!!)
ということで、コースは とアバウトな計画が感性(じゃなくて完成)。
※もうひとつ、北股岳北東斜面の「石転ビ沢大雪渓」のコースがあるが、雪渓は得意ではないので除外。

※メモ
飯豊連峰は 磐梯朝日国立公園内にあり、新潟県(阿賀町)・福島県(喜多方市)・山形県(小国町)の県境にある。 ただし、福島県の部分は飯豊山頂を経て御西岳に至る登山道付近だけ。 廃藩置県で飯豊山付近が新潟県に編入されたが、飯豊山神社は福島県側が本宮としているので、 すったもんだの結果、参道にあたる登山道および山頂を福島県とすることで決着したらしい。

主な峰:

大日岳(2,128m):飯豊連峰の最高峰
飯豊山(2,105m):飯豊本山であり、飯豊山神社がまつられている
北股岳(2,025m):晴れた日には日本海が望める
烏帽子岳(2,017m)
御西岳(2,013m)
杁差岳(1636m)飯豊連峰縦走路の最北端(エブリは田植えの農具。「代馬」同様、エブリを持った雪形に由来)
登山情報: 飯豊朝日連峰の登山者情報

7月17日(土):飯豊山荘→ダイグラ尾根→飯豊本山→本山小屋(テント泊)

16日の金曜日、帰宅したら直ぐ風呂に入り準備・食事などを済ませて、9時前に出発。
ただし、金曜日の夜となると国道16号は混んでいて、八王子の中央道入り口に着いたのは 10時をかなり過ぎていた。その後は中央道→圏央道→関越道→北陸道→日本海東北道と順調に進む。日本海東北道は延伸されていて、ナビは新発田で出ることを指示するが、ここは 感で、その先の荒川胎内まで進む。さらに順調に進んで飯豊山荘に着くが、時間は深夜3:30分 (距離にして約500Km弱、やはり遠い!)。車内で休んでいるうちに4時を回り、明るくなってくると人がポツポツと歩き始めるのが確認できた。こちらもつられてバナナ等で簡単な朝食後、トイレ(飯豊山荘)と準備を済ませ、歩き始める。途中で予め記入しておいた飯豊朝日連峰の登山者情報 からダウンロードした登山者カードを登山口で提出。受付の遭難対策委員会と思しき人にダイグラ尾根には既に2人先行者がいること、アイゼンは必要無いことを確認(戻って置いてくるのも面倒なのでそのまま携行)。

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2010/07/17 5:34:44(ダイグラ尾根開始の吊橋)

空は青く、殆ど晴天で風は無く、相当な蒸し暑さになることを覚悟して進む(5時)。林道が終了しても、暫くは、沢の縁を歩く。そして、この吊り橋を渡ればいよいよダイグラ尾根が開始する。ダイグラ尾根はいきなりの急登(というか、最後まで急上昇、急下降の連続)。とにかく40度位の急登にでだしから汗を搾り取られる(下山に利用する場合、足がガタガタになってきたところで、この最後の急下降は特に気を使うだろう。)。

2010/07/17 9:13:47(宝珠山の端正な円錐形)

無風灼熱の急登でも道は休場の峰まで薄くてもはっきりとしていた。一睡もしていない割には比較的快調に進み、先行の一人に追いつく(見た限り相当消耗していた)。 休場の峰からは「切歯尾根」の異名もある岩岩の連続するアップダウンの険しい千本峰が続く。

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2010/07/17 10:34:40(ヒメサユリ)

標高が上るにつれてヒメサユリが所々に現れる。しかし、雲も出始めてきた。

2010/07/17 12:09:48(宝珠山)

そして、上空に宝珠山(奥)の綺麗な三角錐が見えるころから雪渓の残骸がちらほら現れる。

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2010/07/17 14:08:25 沢筋の雪渓

朝の晴天は午後には終わり、雲が出てきた。同時に微かだった雷鳴が大きく聞こえるようになり、いやな予感...

2010/07/17 14:08:36

登山道も次第に薄く荒れてきて、確かにここが破線ルートであることを自覚できる雰囲気になってきた。


[以降、写真無し]

全く想像していなかったが、中途半端に残った雪渓の残骸が大問題で、この時点で「登山道」とは呼べないほど薄くなった路に止めを刺すかのようにズタズタにしていた。
とにかく滑り落ちないようにと、低木の枝などをストックで手繰り寄せてはおっかなびっくりトラバースと斜面のにじり登りの繰り返しになってしまった。 もう一人先行者がいるはずだが雪の上はともかく、前後のぬかるんだ所にも新しい足跡が全く無い。 「路を間違えたか?」と周囲を色々見回しても、獣道程度の痕跡も他に無い(二人というのは間違い?)。

ここからはイライラするくらい全くペースが上がらず、とにかく忍の一字で進む。そうこうするうちに雲が多くなり遠くに雷鳴が聞こえてきて、焦りに拍車がかかる。
宝珠山を過ぎても延々と続くアップダウンと枝を手繰り寄せてのトラバースもやっと収束しかけてきたころ、雲海に突入。ここまででも相当登ったはずだがまるで空の向こうからこちらに絨毯を転がしたかように斜面は果てしない。
周りが雲で一杯になり視界が無くなりかけてきたころ、ついに土砂降りの雨と雷鳴に捕まってしまった。急いでレインウェアーを着て登りに登る。やっと雲が流れる合間に山頂らしきものを彼方に一瞬確認できた。しかし、手元のGPSは飯豊山頂はまだまだ先で、その前の1969ピークと主張していた。飯豊本山山頂は2105m。その差100m強。つまり、これから100m近く登って1969。それから下り、また約200m近くの登りが待っていることになる。
全身ずぶぬれで1969ピークを過ぎると雲でいよいよ視界が完全に利かなってきた。足元が見えないので、何度か道が曲がっているのに気がつかず這松で進めなくなる。とにかく上、そしてGPSの指す方向へ修正して進む。

飯豊本山の山頂標識が一瞬の光に照らされて、はるか上方に天空を突き刺すように垣間見えたときは絶望感とある種独特の感動に満たされた。瞬間、あの光る山頂に近寄ってはいけないと本能的に感じたが、山頂はトラバースできない!
土砂降りの中、立ち止まるわけにもいかず、観念して、見えた方向に進む。 山頂標識を目の前にして何か背筋に冷たいものを感じ、一瞥しただけで直ぐ近くの本山小屋に向け駆け出す(計画では御西小屋だったが...)。
この時点で15時、約10時間の激登り! 3L強用意した水も全て消費。 本山小屋でやっと一安心した途端に疲労と緊張で完全に力が抜けてしまった。 とにかく少しでも寝たかったが、狭い小屋に人がこれからも来そうだということで、小降りになってきたとはいえ雨の中、テントを張ることにした。テント内も結構濡れてしまった。とにかく着替えたら、もう動く気がせず、そのままひと眠り。
(結局この日、小屋までに出会った人は追い越した人1名のみ...)


7月18日(日):飯豊山荘→御西小屋→飯豊連峰の稜線漫歩→門内小屋(テント泊)

昨日の雨で、とにかく衣類がびしょ濡れなので、乾かすために少し時間を遅くして出発。 この時点で大日岳(飯豊最高峰)は諦め気味。まぁ、ゆっくり稜線漫歩を楽しむことにした。

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2010/07/18 4:54:39 本山小屋から見る大日岳

2010/07/18 5:01:28 本山小屋

飯豊本山を超えて、この小屋が見えたときには本当に「ほっ」とした。

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2010/07/18 5:08:09 天場

正面真ん中のコブの上、薄く磐梯山が見える。
左に下りていくと雪渓があり水をくめるようになっている。
2010/07/18 6:18:05 飯豊本山(右)と大日岳(左)

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2010/07/18 6:31:26 飯豊本山

忘れられない山頂標識。また雲で周囲を隠してくれた...
2010/07/18 7:17:12 伸びやかで平和な稜線

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2010/07/18 7:20:01 残雪と花の道

登山道に咲くキスゲやシアラネアオイには大いに癒された。

2010/07/18 7:38:26 大日岳(左)と御西小屋(右)

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2010/07/18 9:35:44 こんな雪渓の上を何箇所も歩く

昨日と違い、緊張するところは全く無し。もっとも、万が一転がったりしたら、どこまででも落ちていく...

9:46:00 雪渓

雪渓の上は照り返しで結構暑い。雲が出てくれると、とたんに涼しくなる。

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2010/07/18 13:13:40 ミヤマリンドウ

イイデリンドウ!…と思ったけど、違いました。 写真より、ずっと紫が濃かった。

2010/07/18 18:50:27 門内岳と門内小屋

一番に天場に着いて、後はマッタリ昼寝...
結局、テントは我々を含めて4張り。

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2010/07/18 18:59:46 夕焼けと雲海1

陽は日本海に沈む(らしい...)

2010/07/18 19:01:08 夕焼けと雲海2

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2010/07/18 19:07:34 夕焼けと雲海3

2010/07/19 4:37:18 梶川尾根

明日の梶川尾根、一気に下る様が見える。

7月19日(月):門内小屋→梶川尾根→飯豊山荘

また大ドライブで帰宅しなければいけないので、直ぐに梶川尾根から下る。何も登らず下るだけだからと水も1L位しか持たなかった。しかし、やはり暑さにジワリジワリと水分が搾り取られて、直ぐに水はなくなってしまった。 もっとも、中間点に「五郎清水」という旨い水があることは確認済み。五郎清水で冷たい水をタップリ胃袋と プラティパスに補給してからが本当の急降下が始まる。とにかく延々と下りに下り、最後の林道に着いたときは足がガタガタで、思わずへたりこんでしまった。

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2010/07/19 5:32:39 梶川峰から見る地神山・エブリ差方面

大日岳と地神山・エブリ差方面はまたいつか...

2010/07/19 8:00:39 アメリカウラベニイロガワリ?

おいしいらしいけど、とにかく触ればあっという間に色が変わる。 まるで理科の実験をしているようで、食べる気は...

雑感

三日間、ずっと蒸し風呂状態で天白装備には過酷な縦走だった。 二日目は大日岳に寄らず、のんびりの稜線漫歩なので、暑くとも問題なかった。 全く予想外だったのが最終日の梶川尾根。下るだけなので気楽に考えていたが、暑さと最後の延々と続くとんでもない急降下に足がガタガタになった。滴る汗に水分を搾り取られあっという間に水が無くなってしまった。途中の五郎清水で補給したが、その水のうまいこと! 暑さは予想はしていたものの、特に初日、無風のダイグラ尾根は灼熱の世界だった。担いだ水4L弱を全て消費。 一睡もせずに登山開始、猛暑、進めないズタズタの道、体力が限界に達する時点で最後は雷雨と、とにかく 大変だった。雷鳴に追い立てられながら、はるか上の雲間に飯豊本山の山頂標識が光に照らされて一瞬見えた時の絶望感と背筋が凍るような感動は生涯忘れることはないだろう。 ダイグラ尾根最終章、御前坂の大斜面の先、天を突くような飯豊本山は誰が何と言おうが私には文句なしの名山である(あの感動を再度味わうことはゴメンだけど...)。